書籍(商業出版本)の印税
書籍の印税はいくら?相場・計算方法・支払い時期を出版の現場からお話しします
「本を一冊出したら、印税はいくら入るのですか」
ライティング株式会社の高木伸浩です。出版の仕事をしていると、こうした質問をいただきます。印税は平均10%と聞いたことがあっても、それが実際にいくらになり、いつ振り込まれるのかまでは、なかなか想像しにくいのではないでしょうか。
これまで、講談社、集英社、光文社、PHP研究所などの出版社と仕事をし、ゴーストライターとして本の執筆にも関わってきました。その経験からお伝えしたいのは、印税は「何%もらえるか」だけでは判断できないということです。同じ10%でも、何部を対象に計算するのかによって、受け取る金額は大きく変わります。
ここでは、出版の現場で経験してきた印税の相場や支払い方について、具体的な金額を交えながらお話しします。制度を網羅的に解説するというより、実際に仕事をしてきた側から見た「印税の実情」として読んでいただければと思います。
目次
1.自費出版でも印税は発生する。「売上還付金」という呼び方もある
まず、印税の話をするときに、一つお伝えしておきたいことがあります。
「商業出版なら印税がもらえるけれど、自費出版では印税はもらえない」という説明を見かけますが、この分け方には違和感があります。自費出版でも、書店で販売され、売れた本に応じて著者にお金が支払われるケースがあるからです。
ただし、そのお金を「印税」と呼ぶかどうかは、出版社によって違います。
東京の大手の自費出版専門会社などでは、「売上還付金」と呼んでいる例があります。これまで接してきた範囲では、売れた分の2〜5%ほどを著者に支払う、といった条件です。
自費出版の本については、出版社側にも「印税」という言い方を使いたがらない事情があるのだろうと感じています。ただ、著者の立場から見れば、本が売れ、その売れた分からお金を受け取るという意味では、印税と同じようなものと考えていただいてよいと思います。
大切なのは、呼び方だけで判断しないことです。「印税はありません」と言われたら、本が売れたときの著者への支払いもないのか、それとも別の名称で支払われるのかを聞いてみてください。
もちろん、自費出版なら必ず2〜5%が支払われるという話ではありません。ここでお伝えしたいのは、「自費出版だから印税は発生しない」と、ひとくくりにはできないということです。
出版方法そのものから検討したい方は、自費出版とはもご覧ください。仕事の専門性や会社の価値を伝える一冊をお考えなら、企業出版のご案内に、出版の目的や活用方法をまとめています。
2.印税の相場は8〜12%が目安。1,500円の本ならいくらになるか
商業出版の印税率について、仕事の経験から大まかな目安をお伝えするなら、8〜12%ほどです。そのなかでも、大手出版社との仕事では10%という条件によく接してきました。
では、10%とは実際にいくらなのか。1,500円の本を例に計算してみましょう。
1,500円の本を3,000部発行し、その発行部数に対して10%の印税が支払われるとすると、計算は次のようになります。
1,500円×3,000部×10%=45万円
一冊出せば、まず何百万円も入ってくるというイメージをお持ちの方には、意外と少なく感じられるかもしれません。しかし、3,000部という規模で考えると、45万円というのが現実的な数字になります。
初版が1万部になれば、どうでしょうか。
1,500円×1万部×10%=150万円
印税率が同じ10%でも、発行部数が変わるだけで、45万円と150万円の違いが出てきます。
芥川賞作家でも、初版1万部ほどという規模を、一つの目安として考えています。もちろん作家や作品によって違いますが、小説が売れにくいと感じるなかでは、1万部でスタートできれば、むしろよいほうかもしれません。
一方、東野圭吾さん、宮部みゆきさん、池井戸潤さん、村上春樹さんといった著名な作家になると、初版から5万部、10万部といった、もっと大きな規模の話になります。
仮に同じ1,500円、印税率10%で計算すれば、5万部なら750万円、10万部なら1,500万円です。それぞれの作家の実際の契約金額をお伝えしているわけではありませんが、部数によって印税収入がどれほど変わるかは、おわかりいただけると思います。
本を出して受け取る金額を考えるなら、印税率と一緒に、何部からスタートするのかを見る必要があります。
| 発行部数 | 印税額 |
|---|---|
| 3,000部 | 45万円 |
| 1万部 | 150万円 |
| 5万部 | 750万円 |
| 10万部 | 1,500万円 |
3.同じ印税率でも受取額が違う。発行部数と実売部数の違い
ここからが、印税を考えるうえで特に知っておいていただきたい話です。
先ほど、「1,500円の本を3,000部発行し、印税率10%なら45万円」と計算しました。ただし、3,000部発行されたからといって、どの出版社でも45万円を受け取れるわけではありません。
印税を計算する基準には、「発行部数」と「実売部数」の違いがあるからです。
発行部数を基準にする場合は、発行した冊数をもとに印税を計算します。3,000部発行したら、その3,000部に対して支払われます。書店で何部売れたかが確定するまで、待つわけではありません。
これに対し、実売部数を基準にする場合は、実際に売れた冊数をもとに計算します。3,000部発行しても、売れたのが1,000部なら、その1,000部が印税の対象になります。
1,500円の本で印税率10%という条件をそろえると、こうなります。
発行部数3,000部を基準にする場合
1,500円×3,000部×10%=45万円
実売部数1,000部を基準にする場合
1,500円×1,000部×10%=15万円
同じ本、同じ発行部数、同じ印税率であっても、計算する部数が違えば、受取額は3倍も違います。
経験上、大手出版社では発行部数に対して支払われることが多く、中小・零細の出版社では実売部数を基準にするところが多いという印象です。ただ、中小出版社でも発行部数で支払うところはあります。あくまでも、これまで見てきたなかでの傾向です。
「印税は10%です」という説明だけで安心せず、その10%を何部に掛けるのかまで聞いていただきたいと思います。
| 計算の基準 | 対象部数 | 印税額 |
|---|---|---|
| 発行部数 | 3,000部 | 45万円 |
| 実売部数 | 1,000部 | 15万円 |
4.印税はいつもらえる?発売翌月と1年後では大きな違い
印税では、金額に加えて、いつ支払われるのかも大切です。
大手出版社との仕事では、本が発売された翌月ぐらいに印税が振り込まれる、という支払い方に接してきました。発行部数をもとに計算するので、最終的な売れ行きがわかるまで待つ必要がないのです。
1,500円の本を3,000部発行し、印税率10%という条件なら、45万円が比較的早い時期に入ってくるイメージです。
一方、中小出版社のなかには、発行してから1年ほどたったところで、売れた分の印税を支払うところもあります。同じ3,000部発行でも、その段階で1,000部売れていれば、受け取るのは15万円です。
片方は発売翌月ぐらいに45万円、もう片方は1年ほどたってから15万円。この違いは、著者にとって小さくありません。
本を書くには時間がかかります。取材をしたり、原稿を書き直したりして、ようやく発売にたどり着きます。そのうえ、支払いまでさらに1年待つのかどうかは、執筆を仕事として考える人にとって、特に大きな問題です。
出版社から条件を聞くときには、「印税率はいくらですか」と一緒に、「何を基準に計算し、いつ支払ってもらえるのですか」と尋ねてください。受け取れるお金の姿が、ずっと具体的になります。
契約前に確かめたい条件については、契約・トラブルについてのよくある質問も参考にしてください。
5.印税率が8%・10%・12%・15%と違うのはなぜか
大手出版社では10%が多い
これまで比較的密にやりとりしてきた大手出版社では、印税率はおおむね10%という印象です。大手だから、売れる作家にはどこまでも率を上乗せする、という感じでもありません。10%という基本の条件からは、あまり動かさないように見えます。
もちろん、個々の契約は違うでしょう。ただ、仕事の現場で受け止めてきた感覚としては、大手の10%は、一つの基準になる数字です。
中小出版社では8%になることもある
では、中小出版社ならどうかというと、8%という条件になる場合があります。
その背景には、出版社の経営上の余力があると見ています。売上や資本の規模が違えば、著者に10%を支払うことが負担になる場合もあるからです。
出版の仕事を続けてきて感じるのは、一冊一冊の売上が伸びにくくなるなかで、出版点数を増やして売上を補おうとする動きです。以前なら月に10冊ほどだった中堅出版社が、15冊ほど出すようになる、といったことです。
ただ、本をたくさん出せば、その分、編集や制作などの経費もかかります。出版点数を増やしたからといって、そのまま著者への支払いを増やせるわけではありません。そうした事情から、印税率が8%になることもあるのだろうと考えています。
売れる著者なら、12%や15%で交渉できる場合もある
その一方で、12%、場合によっては15%という契約の話もあります。
「そんな出版社があるなら教えてほしい」と思う方もいらっしゃるでしょう。ただ、誰が持ち込んでも、一律に15%で引き受けてもらえるという話ではありません。
たとえば、本が売れると見込まれる有名な書き手に、中小出版社の側から「ぜひ書いてほしい」と依頼する場合です。著者の側から、「12%なら書きます」「15%なら引き受けます」という条件を出せることがあります。
出版社にしても、印税率が多少高くなっても、十分な部数が売れれば収益を確保できます。どうしてもその著者の本を出したいのであれば、率を上げてでも契約したいと考えるわけです。
作家も経験を重ね、自分の本が売れるようになると、印税は交渉できるものだと気づいていきます。出版社から求められる立場になれば、それだけ条件について話し合える余地も出てきます。
印税率の幅には、出版社の規模や経営事情と、著者との交渉上の関係の両方が表れているのです。中小出版社だから必ず低い、大手出版社だから必ず高いという分け方だけでは、説明しきれません。
6.ゴーストライターを使うと、著者の初版印税がゼロになることも
もう一つ、出版の仕事に関わっていないと、あまり知られていない話があります。
ゴーストライターを使って本をつくった場合、著者本人の初版印税がゼロになる契約もあるということです。
ゴーストライターとは、著者のお話や考えをもとに、原稿を執筆する人です。表紙に名前が出る著者と、実際に文章を書く人が違う場合、その執筆に対する費用が必要になります。
経験上、一冊の執筆を依頼するには、50万〜100万円ほどの支払いを考えることが多くあります。その費用をどう用意するかというと、初版で発生する印税を、ゴーストライターへの支払いに充てる契約になる場合があるのです。
著者に入るはずの初版の取り分を、まずは全額、ゴーストライターに渡す。そのため、著者本人が受け取る初版印税はゼロになる、という仕組みです。
たとえば、初版を8,000部発行し、その分の著者の取り分はゴーストライターへの支払いに充てたとします。その8,000部が売り切れ、次に5,000部増刷することになったら、その第2刷の5,000部から著者に8%の印税が付く、といった形です。
初版で何部も出たから、著者にはその分の印税が入っているはずだとは限りません。有名な著者でも、ゴーストライターを使っていれば、初版では本人の手元に印税が残らないことがあるのです。
出版不況といわれるなかで、出版社も一冊に使える予算を考えています。表に出る著者名や発行部数だけでは見えない、こうした費用の分け方も、現場の印税を知るうえでは外せない話だと思います。
コラム|印税の数字だけでは見えない出版の現場
印税は4万2千円。ところが、飲食代は5万〜10万円
印税の話をするときに、今でも思い出す出来事があります。
ゴーストライターとして執筆した、定価700円の新書がありました。その本が2,000部増刷になったのです。自分が関わった本を、さらに読んでもらえる。増刷の知らせは、それだけでうれしいものでした。
当時、その本についての取り分は3%でした。計算すると、こうなります。
700円×2,000部×3%=4万2千円
増刷によって入ってきた印税は、4万2千円です。
ところが、その大手出版社の編集者の方と一緒に飲みに行くと、2軒、3軒と回るうちに、5万〜10万円ほどが使われることがありました。
たとえば、1軒目で一人1万5千円ほどのお寿司をごちそうになる。2軒目でバーに行くと、そこでも一人1万円ほどかかる。それだけで、一人2万5千円です。二人なら5万円になりますし、さらに3軒目へ行けば、金額も増えていきます。
大手出版社は、著者や書き手との付き合いに、これだけのお金を使えるのかと感じました。もちろん、ごちそうになったことはありがたく思っています。なかなか自分では行かないお店にも連れていっていただきました。
ただ、正直な気持ちを言えば、「それなら、その分を印税として払ってもらえたらうれしいのに」とも思ったのです。
増刷の印税は4万2千円。一緒に飲み歩く費用は5万〜10万円。受け取る側としては、その差が気にならないわけではありません。
また、何軒も一緒に回っていると、「著者を接待するという名目だけれど、編集者の方も飲み歩きたいのかな」と感じることもありました。あくまでも、その場にいた側の率直な感想です。
印税率は一定にしておきながら、食事やお酒の席では気前よくお金を使う。出版の仕事には、そんな一面もありました。印税の計算式だけを見ていては伝わらない、現場での経験です。
作家に誰を付けるかにも、出版社の考え方が表れる
大手出版社は、印税率を10%からあまり動かさないように見える一方で、作家との関係づくりには、ずいぶん力を入れていると感じます。食事やお酒の席だけではありません。どの編集者を担当に付けるかにも、その考え方が表れるように思います。
かなり率直に言えば、男性作家には美人で有能な女性編集者、女性作家には見た目がよく仕事もできる男性編集者を付ける、といったことまで意識しているのではないか、という印象を持っています。
ただ、異性であればよいという話でもありません。ファッションにこだわりのある女性作家なら、同じようにファッションセンスのある女性編集者を付ける。そうした、作家の好みや感覚に合う担当者の組み合わせもあるのだろうと思います。
仕事ができることを前提に、一緒に過ごして心地よい人、話の合う人を担当にする。作家に「この出版社と仕事を続けたい」と感じてもらうために、条件の数字以外にも気を配っているように見えるのです。
有名になればなるほど、作家は自分の印税について交渉できると気づいていきます。それでも大手出版社が率をあまり変えず、担当者や会食など別のところに力を入れるのは、そうした形で作家に報い、関係を続けようとしている面もあるのかもしれません。
これは、出版社から理由を説明された話ではありません。編集者と仕事をし、食事をご一緒するなかで抱いてきた、個人的な見方です。印税率の数字には出てこない、出版の世界の人付き合いも知っていただければと思います。
7.まとめ:印税は、率・計算する部数・支払い時期を合わせて考える
印税は8〜12%ほど、大手出版社では10%が一つの目安。ここだけを覚えても、実際にいくら受け取れるのかまではわかりません。
同じ1,500円の本、同じ10%でも、発行部数3,000部を対象にすれば45万円、実売部数1,000部を対象にすれば15万円です。さらに、それが発売翌月に支払われるのか、1年後なのかでも、著者にとっての意味は変わります。
出版の条件を聞くときには、次の点を確かめていただきたいと思います。
- 印税率は何%か。
- その率を、どの価格と、どの部数に掛けて計算するのか。
- 初版は何部発行する予定か。
- 印税はいつ支払われるのか。
- ゴーストライターを使う場合、その費用を誰が、どの取り分から支払うのか。
自費出版の場合も、「印税」か「売上還付金」かという呼び方だけでなく、売れたときにどのような支払いを受けられるのかを確認してください。
本を出す喜びと、そこから得られる収入は、どちらも大切なものです。これから出版される方には、10%という数字だけで期待を膨らませるより、ご自身の一冊では実際にいくらになり、いつ受け取れるのかまで、具体的に考えていただきたいと思っています。
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